ホテルでも、借りた部屋でも、ベッドの真ん中に長い筒が一本置いてあります。形は日本の抱き枕とほとんど同じです。違うのは、なぜそこにあるか。日本では自分で選んで買う道具ですが、ここでは枕やシーツと同じく、最初からベッドについてくる備品です。理由は趣味ではなく、気候です。
ベトナム語では gối ôm(ゴイ・オム)といいます。gối が枕、ôm が抱く。そのまま「抱く枕」です。
日本から来た方は、たいてい最初にこれを部屋の隅に立てかけます。飾りだと思うからです。一週間ほどして、暑くて寝つけない夜に、なんとなく抱いてみて意味がわかる——という順番をよく聞きます。
抱くためではなく、離すためにあります
横向きで寝ると、上の腕が下の腕に重なり、上の脚が下の脚に乗ります。肌と肌が触れているところには風が通りません。ひざの内側、太ももの内側、脇の下——熱と汗がいちばん逃げ場をなくす場所です。
涼しい土地なら、それで困ることはあまりありません。気温30℃、湿度80%の夜は事情が違います。午前2時に体が湿って目が覚めるとき、原因はたいていその重なった面です。
枕を抱くと、腕と脚が離れます。体のあいだにすき間ができて、そこを空気が通る。抱きしめる安心感のためではなく、すき間をつくるための道具だと考えると、この枕の形も長さも説明がつきます。熱帯アジアの広い範囲に似た枕があるのは、同じ理由です。
ついでの効果もあります。何かを抱えていると、上側の骨盤が前に倒れにくくなり、腰のねじれが減ります。横向きで寝て腰が痛む方が、ベトナムに来てから楽になった、と気づくことがあるのはそのためです。
買うときに見る三つ
カバーは、頭の枕より効きます
抱き枕は、頭の枕よりも広い面積の肌に、長い時間触れています。しかも当たるのが、腕の内側や太ももの内側という、熱がいちばんこもる場所です。だから生地の選びかたは、シーツよりもこの枕で差が出ます。
当店のカバーは、シーツと同じ Ice Spandex Tech 2.0 で仕立てています。試験成績書の表記はポリアミド86.6%・スパンデックス13.4%。ポリアミドは当店が扱う四つの繊維のなかで熱伝導が高く、肌の熱を引き取る側の仕事に向いています。スパンデックスが少し入っているのは涼しさのためではなく、筒に沿ってカバーがたるまずに収まるためです。
比べる相手はポリエステルです。ポリエステルの公定水分率はおよそ0.4%——ほとんど水を吸いません。汗が繊維に入って空気へ抜けていかず、肌と布が触れているその場所に残ります。エアコンが効いているのに背中だけ湿っている、という夜の正体はここです。ポリアミドは3.5〜4.5%。桁がひとつ違います。
ただし、これは繊維の表の数字です。実際に肌で感じる涼しさは、織りかた、密度、撚り、仕上げでも変わります。同じポリアミドでも生地が違えば感じかたは違う。数字だけで決めつけないほうがいい、というのが正直なところです。生地ごとの向き不向きは生地の選びかたのページに、弱点も含めて書いてあります。
手入れ — 日本のやりかたが通らないところ
- 洗うのはカバー、中材は洗わない。カバーはファスナーで外れます。マイクロファイバーの中材は、洗濯機に入れるより日陰の風通しで休ませたほうが長くもちます。
- 天日には出さない。日本の感覚だと布団は干すものですが、ここでは直射日光が強すぎ、そもそも干せない日が続きます。なぜ干せないのか、代わりに何をするのかは湿度70%の国での寝具の手入れにまとめました。
- 先に替えるのは中材のほうです。中材はつぶれると、すき間をつくるという役目を失います。カバーのほうがたいてい長もちします。
- ふたりなら二本。一本を分け合うと、どちらも腕と脚を同時に預けられません。
迷っているなら
この枕は、説明を読んでいるあいだは要らないもののように聞こえて、暑い夜に一度使うと手放せなくなる——という感想をよくいただきます。部屋にすでに一本あるなら、まず今夜それを使ってみてください。それで合うとわかってから、中材やカバーを選べば十分です。
中材だけ買い替える方も多いので、マイクロファイバーの抱き枕中材 › を置いています。カバーの手ざわりを先に確かめたい方はIce Spandex のシーツと掛けもの › と同じ生地です。
ホーチミン市にお住まいなら、実際に一分だけ抱いてみるのがいちばん早いです。169/36 Lương Định Của(An Khánh, トゥードゥック市)、月〜土 10:30–17:30。買わずに見るだけでもどうぞ。